彼岸から此岸を見る

投稿者: | 2015年6月14日

「攻殻機動隊」はSF作品で、作中に登場するサイボーグ技術「義体」や「電脳」は架空の存在だ。しかし魅力的な作品設定は今でも少なからぬ人たちに影響を与えている。「攻殻機動隊 REALIZE PROJECT(リアライズ・プロジェクト)」は、「攻殻機動隊」らしい科学技術の実現(リアライズ)に向けた情報発信と研究開発、起業活動支援を目的としたプロジェクトである。
Source: 「攻殻機動隊」的科学技術の実現に挑む! – 「攻殻機動隊REALIZE PROJECT」が記者説明会を実施 | マイナビニュース

あの世界を「つまみ食い的に」=技術的な面のみにフォーカスして「リアルにする」ことに、どんな意味があるのかよく分からない。

やるなら徹底的にやればいい。
『攻殻機動隊』で描かれた世界を徹底的に現実のものとしようと試みれば、その過程で、まずは技術的に困難な部分が、次に倫理的に困難な部分が明らかになるだろう。
そして、技術的には越えられる(あるいはその可能性がある)ハードルであっても、倫理に鑑みて、果たして越えてしまっていいものかどうかを、私たちは問われることになる。

彼岸から此岸を見るという視座がこの瞬間に提供される。
あるいは、鳥瞰・俯瞰の視点と言ってもいい。
優れたSFというのは、エンターテインメントとして味わったあとに、この視座・視点から現実を見つめ直す機会をも与えてくれるものだと思う。
そして、『攻殻機動隊』はこの点において非常に「優れたSF」であると私は感じている。
“The Matrix” 三部作(『攻殻機動隊』に大いに影響を受けている)もしかり。

「優れたSF」によって提供される上記の視座・視点は、それを現実のものにしてみようと試みて初めて体感できるものではない。
そんなコストをかけなくても、読めばいい。観ればいい。
それが文学であり、漫画であり、映像作品であるはずだ。
読んでも観ても上記の視座・視点を獲得できないのは、当人が野暮だからだ。
野暮とは想像力の欠如に他ならず、想像力の欠如は訓練の欠如と同義である。

この企画は、『攻殻機動隊』という優れた、しかし決して新しくはないコンテンツにいつまでもしがみついて消費し尽くすことしかできない人間たちが、その意図を美辞麗句で覆い隠しながら、する必要のない野暮な行為を無理に実行しようとしているように見える。

ゆえに、非常に不愉快である。